女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~



「あらごめんなさい、昔話よ、今のは」

 そう言いながら玉置さんは、口元に手をあててコロコロと笑う。

 私は立ち上がって、口元に笑みを浮かべた。

「・・・そちらは失敗したそうですね」

 彼女の笑い声が止む。周囲に配慮して声を落としたけど、ちゃんと聞こえたらしい。

「結婚されてたけど、酷い失敗をしたそうで。もしもの時は色々教えて下さいね。離婚に関する色んな手続きは経験者に聞くのが一番早いでしょう?」

 彼女がさっと手を下ろした。笑顔が消えたその切れ長の瞳をみて、私は少し溜飲を下げる。

 鞄を持ってから、大きな笑顔で彼女に微笑んだ。

「それに」

 私の方がもともと背が少し高い。しかもこちらも着替えてヒールを履いたので、自動的に彼女を見下ろす格好になった。

「彼がうまいのはキスよりも、その後の方ですから」

 茶目っ気の演出にウインクまでしてやった。

「・・・良かったわね」

 彼女の低い声に笑いだしたくなる。バーカ。相手見て喧嘩売れっちゅーの。私が泣き寝入りするようなか弱い女に見えるかよ。

 でも私は怒っていた。気分を悪くしていたので、不快感を表明するために更に言葉を続けた。

「ああ、すみません。現在男日照りかもしれない方に、夜の生活の自慢なんて失礼でしたよね」

 彼女は絶句した。