「あらごめんなさい、昔話よ、今のは」
そう言いながら玉置さんは、口元に手をあててコロコロと笑う。
私は立ち上がって、口元に笑みを浮かべた。
「・・・そちらは失敗したそうですね」
彼女の笑い声が止む。周囲に配慮して声を落としたけど、ちゃんと聞こえたらしい。
「結婚されてたけど、酷い失敗をしたそうで。もしもの時は色々教えて下さいね。離婚に関する色んな手続きは経験者に聞くのが一番早いでしょう?」
彼女がさっと手を下ろした。笑顔が消えたその切れ長の瞳をみて、私は少し溜飲を下げる。
鞄を持ってから、大きな笑顔で彼女に微笑んだ。
「それに」
私の方がもともと背が少し高い。しかもこちらも着替えてヒールを履いたので、自動的に彼女を見下ろす格好になった。
「彼がうまいのはキスよりも、その後の方ですから」
茶目っ気の演出にウインクまでしてやった。
「・・・良かったわね」
彼女の低い声に笑いだしたくなる。バーカ。相手見て喧嘩売れっちゅーの。私が泣き寝入りするようなか弱い女に見えるかよ。
でも私は怒っていた。気分を悪くしていたので、不快感を表明するために更に言葉を続けた。
「ああ、すみません。現在男日照りかもしれない方に、夜の生活の自慢なんて失礼でしたよね」
彼女は絶句した。



