「こんなに近かったのに会わなかったわね、タイミングが悪かったんでしょうね」
玉置さんが微笑む。私はそうですね、と返しながらちゃっちゃと着替える。・・・タイミング、良かったんだよ、今までは。あー、早く着替えてずらかろう・・・。
「・・・ねえ、小川さんて・・・」
唇を鮮やかな赤で彩った彼女がロッカーを閉めながら言った。
「去年ここで金銭が絡む事件を起こした守口とかいう犯罪者の彼女だったって、本当?」
ちょうどジーンズに足を突っ込んでいた最中だったので、そのままロッカーに頭をぶつけるかと思った。足に力を入れて慌てて踏ん張る。
どこから仕入れたその情報!?
でもまあ、社員さんで被害にあった人もいるし、それで話が伝わったのかも、だけど・・・。それにしても。
「・・・本当です。元カノですけど。ヤツはバカでしたから別れといて正解でした」
小さな声で話しながら振り返る。
「ふうん・・・」
私をじっと見ながらゆっくりと頷き、彼女はロッカーの鍵を閉める。ここのロッカーは暗証番号制なので、指でダイヤルを回している。
「それで桑谷君にのりかえたってわけなのね」
私は目を細めた。・・・何だ、この女。何が言いたいんだ。私は黙って着替えを終える。
私物袋から鞄に荷物を移していると、さっさと行けばいいのにまだぐずぐずと残っていた玉置さんは、やっと鞄を手にしてから言った。
「正解だったわね。干からびる前に結婚出来たみたいだし、桑谷君て、凄くキスも上手だものね。そりゃあうまい方がいいに決まってるし」
一瞬固まった私が顔を上げると、彼女は艶然と微笑みながら中腰で止まる私を見下ろしていた。



