全国の、全歴史の中の、全ての母親に私は尊敬の念を送る。

 人間てこんなに痛い思いして生まれてくるんだ、と判ったから。

 感動なんてちっともする暇なく痛い痛いと思い続けてヘトヘトになり、このままだと死ぬかも、そう本気で思った。だけどその痛みがいきなりなくなり、無事に生まれてきたのは男の子だった。

 私は全身で呼吸をしながら、胸の上に置かれた小さくて新しい命を見詰める。

「・・・君だったのね。私のお腹で連続23回転をしていたのは」

 名前は、雅洋に決定。

 そっと語りかける。赤ん坊はまだ見えていないらしい瞳を開いて、口を動かしていた。でも声に反応しているのが判った。これが、神秘なんだな。

 うーん・・・。じっくりと眺める。・・・・彼の目。私の口。一体どうしてそんな似方を?多分性格や行動などはまだあったこともない親族の誰かにちょっとづつ譲り受けているはず。

 色々考えていたら笑えてきた。

 痛みもなくなっていた私は、あはははと声に出して笑う。先生が、おめでとう、と声をかけて出て行った。

 傷口も綺麗で、これだったら縫わなくてもいいですね、ラッキーでしたねえ!と言っていた。ほんと、ラッキー。あそこを縫うなんていやだ。だって、人間の急所だぞ?そんなとこを麻酔なしで縫うなんて、それこそどんな拷問だ。


 助産師さんが、笑顔で彼の到着を告げる。

 私は名づけたばかりの小さな男の赤ちゃんに言う。