「そしたら、まりとゆりになる」

 ・・・・・同じことしてんじゃないの、自分だって。

「もしくは、えり」

 まだ言うか、と思って、砂をかけてやった。風があって避けきれず、彼は頭から砂を被る。

「うわあ!・・・何てことすんだ・・・」

 あーあ、と言って彼は立ち上がり、犬みたいに体も頭もぶるぶる振って、砂を落とした。

 そして私に手を差し出す。

 夕日に照らされて彼の顔には影が出来る。その半分の笑顔で、私を見詰めていた。うふふと笑って彼の手を握る。そして引っ張り上げられて、私はそのまま反動を利用して、不安定な砂の上に爪先立ち、彼にキスをした。

 去年と同じ。塩味のキス。今年は更に砂つき。

「・・・ありがとう。全部」

 不意をつかれた彼は驚いたようだったけど、ゆっくりゆっくり、夕日に照らされながら、笑顔を大きくした。

「・・・全部って、何だ?」

 私は真っ直ぐに見詰める。この素晴らしい紅色の世界で、正直にならない人なんているんだろうか。

「私のことを考えて、玉置さんに何もせずに放免したのが判ってる」

 彼が真面目な顔になった。

「・・・知ってたのか」

「そう」

 これから子供を産む私を気遣って、その影響を考慮して、彼は玉置桜子を許したのだと、判っていた。

 感情がもろくなっている私の前で、いかに酷いことをした女だったとしても、ぶちのめす事など出来ないと考えたのだろうと思う。

 彼は、優しい人間ではない。むしろ自分の大切にしているものに危険が及ぶなら、すぐさま原因を叩き潰すタイプの男だと思う。