「ああしなきゃ、翌日には離婚届だった」
彼の拳が握られたのを見た。無意識かどうか、目も細めている。
「でも」
私は続ける。
「私なしではあなたは潰れる。もう去年までの弱みのないあなたには戻れない。だから、離婚を回避するために出て行ったの。時間が必要だった。あなたが考える時間、私が息をする時間」
彼が瞼を閉じて手の甲で拭う。そのままで小さく呟いた。
「―――――・・・俺なしでは君も潰れるんだと言ってくれ」
「いいえ、私は大丈夫」
ガックリと彼は頭を垂れた。
「あなたを失ったら、4,5年は奈落の底を彷徨うでしょう。無傷ではいられない。だけど潰れたりはしないわ。女は現実的なのよ。消えた男をいつまでも想って泣いたりしない」
彼はそれを聞いて、苦笑まじりに手の隙間から私を見た。
「・・・そこは嘘でも、ええ、私もそうよって言うところじゃないのか?」
私は目を見開いた。
「嘘をついて欲しいの?」
ううー・・・と唸ってテーブルに突っ伏していたけど、彼はその内笑い出した。
肩を震わせて笑っている。大丈夫か?壊れたか、それか酔っ払った?まさか、缶ビール一本でこの男が酔うはずがない。
「ははは・・・・」



