「玉置の弱みを見つけ、脅すしかないと考えていた。証拠がない限り訴えることは出来ない。君が仕事を辞めるとは思えない。同じ百貨店で騒動が起こらないようにするには、玉置を脅すしかないな、とな」

 私は少しだけ笑った。・・・母と全く同じことを考えたんだな。やっぱり配偶者には、身内の誰かと似ている人を選んでしまうって本当なんだ。

「それって、犯罪よ、桑谷さん」

 私の言葉に彼は首を傾げる。だから、何だ?と言ってるみたいだ。この反応まで母と同じだった。

「俺は」

 言葉を切って、ビールを飲み干した。

「君のためなら喜んで罪だって犯す」

 現在、妊娠の影響で感情の起伏が激しくなっている私は、喜びを隠すのに苦労した。だけど落ち着いて息を吸い、出来るだけ表情を変えないで言った。

「―――――・・・子供の父親が犯罪者ってのは、あまり喜ばしくないわ」

 私の言葉に彼は軽く頷いた。

「判った。これからは、しないでおく」

「出来る限り?」

 彼はからかうような顔をして、人差し指を振る。

「そう。だけど、また、君が逃げ出すなら話は別だ」

 私は一度言葉を切って、微笑んだ。・・・・そろそろ、話さないとダメなんだな。私が出た理由は溜まったストレスじゃないんだって。

「・・・逃げたんじゃないわ」

「うん?」

「私は、あなたを守ったのよ」

 桑谷さんが真面目な顔をして止まった。私をじっと見ている。