去年の夏に首を突っ込んで元彼の守口斎と戦った時にも思ったけど、この人は行動が本当に早い。そしてスマート。人間の行動理由をよく読んでいるのだろう。実にさりげなく、的確に、情報を手に入れてくる。

「社員の女一人の異動に何が隠されているんだと追求すると、酔っ払ったヤツらが話し出した。彼女にはよくない噂があると。何人かの男が金をせびられ、支払ったことがバレて離婚になったらしい、とかな」

 ここで、俺、飲んでいい?と聞くので、私は手の平をキッチンに振った。

「どうぞ。今では私、あまり惹かれないようになってるの。ビールの缶を見ても」

 桑谷さんが戻ってきてグラスにつぎ、飲むまで黙って待っていた。

 ふう、と息を吐いて私に視線を戻す。あの、冷静な黒い瞳に私がうつる。去年からそうだった。そして、これからも続いていく。

「・・・だから、俺は直接吉田に話を聞きに行った。もうこちらも隠さずに、君の家出までの全部を吉田に話した。そしたら、玉置に言った話をしてくれたんだ。その嫌がらせは、きっと桜子だと。妊娠出来ないと判ってから、桜子は変わってしまったって。手術の後遺症で妊娠出来ないと判ったのは、結婚してからだったらしい。吉田はそれでもいいと言ったそうだけどな。・・・彼女は、壊れたんだな」

 私は黙って聞いていた。

 それは確かに、物凄い衝撃だったんだろう。だけど、私はそんな女に同情しない。同じことになったとしても、私なら、そうはならないと思うから。