女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~



 私は前に座って、ぺこちゃんのような無邪気な笑顔で答える。

「売られた喧嘩は買うでしょ。そして、倍にして返すべし」

「・・・頼むから、その個人的規則は捨ててくれ」

 私はむう~っとむくれた。でもその個人的規則がなかったら、そもそも私達は出会わなかったわけだし、と呟く。男に仕返しをしたくて入った百貨店で、桑谷さんに出会ったのだぞ。

「だから、彼女と何があったのよ?」

「・・・それ、重要か?」

「彼女の話が本当かどうか知りたいだけ。キスしたの?」

 彼は嫌そうに顔をしかめたまま言った。

「・・・した」

「その後最後まで?」

「そこは重要じゃねえだろ?」

 私はニヤニヤしてフォークをぶらぶらさせる。私はこんなことでヤキモチなんか焼かない。現在の彼が私に一筋なのがハッキリしているからだ。

 ただ、楽しくて問い詰めていた。

「うん、重要じゃないけど知りたいだけ」

「・・・面白がってるだろ。言わない。食べたなら、片付けるぞ!」

 親指を下に向けて散々ブーイングしたけど、彼はさっさと立ち上がって食器を片付けだした。

 私は追及を諦めて、久しぶりにお気に入りの庭が見える廊下に出る。そしてあぐらをかいて座って、緑が揺れるのを眺めていた。

 心が落ち着いていた。

 彼が玉置を犯人であると認めた形になったので、安心していた。