僕は、忘れない。

あの日の事を……。

深夜のハイウェイだった。僕は、口笛を吹きながら、お気に入りのCDを聞いていた。
すると、突然、電光掲示板に『この先、通行止め』の文字が。僕は、仕方なくハイウェイを降りた。田畑を抜けて、しばらく行くと家の灯りがポツリポツリあった。

道は一本道。

僕は、ただ進むだけ。

すると景色は突然、一変して工業団地になった。

目映いばかりの光、ひかり、ヒカリ。

僕は、サングラスをしようとしたが、家に忘れていたことを思いだし目を細めて運転した。他にも何か忘れているような気がしたけど…。

その時、右側の歩道を歩いていた老夫婦が目に止まった。婦人がウズクマッテいるように見えた。僕は、ハザードを出して止まる。

紳士が言う。

「家内が急に体調を崩して!近くの病院まで乗せてください!」
僕は、彼らを乗せた。言われるままに車を走らせると病院に着いた。

比較的、小さな病院だった。紳士は、婦人を背負う。僕は、その後を小走りで追う。

病院の灯りが自動的に灯されていく。

何処を、どう行ったかは分からないが手術室の前にきた。

紳士が言う。

「先生、マスクをしてください。」


「!?先生って、だれも、いませんよ」

紳士
「そのコートの内ポケットには、何がありますか?」



「……」

紳士
「何が、ありますか?」


「……。貴方の奥様は、もう長くはありません。それでもオペを」

紳士
「もう一度、家内の笑顔が見れるなら、私から臓器を摘出して移植してください!」


「……いいでしょう。貴方が滅する十日後に奥様も後を追うようにします」

僕は、コートから数多の器具を取り出して、二人に麻酔をした。

いつしか二人は眠りに着いた。

僕は、回想する。


以前も貴方は、そう言ったんですよ。

変わらないのは、この工業団地の灯り同様、貴方たちの絆、


そして僕の医学に対する切なる願いだけ………。

(おわり)