期待なんてしてないけど、『遅くなるなら迎えに行こうか?』ぐらい言ってくれても良いじゃない。



「無理か。静流くんだし」



そう呟いて、私は山のように積んである仕事に戻った。



カタカタとパソコンを打ちながら、ようやく少なくなった資料を横目にふぅ、と休憩していると、同僚の桜木茜(さくらぎあかね)がコーヒーを持って私の所に来た。



「沙耶、お疲れ!やっと終わりそうね。もう22時だよ」



「ありがと。もうこんな残業懲り懲りだよ」



コーヒーを受け取り、机に項垂れる。



「この時期は仕方ないけどね。そういや彼氏くんは迎えに来てくれるの?」



「来ない来ない。茜も知ってるでしょ?あの面倒くさがりなの」



「あ〜、そうね。夜遅いし、帰るの気をつけなよ?隆に送ってもらう?」


隆というのは、茜の彼氏さん。
静流くんと違って優しいの。



「いやいや。悪いし、良いよ。大丈夫」



「気にしなくても良いのに。じゃ、隆迎えに来たみたいだから帰るね」



「うん。また明日」


いそいそと帰り支度をして出て行く茜に軽く手を振りながら、残ってる仕事に手を付けた。