――トントン。

「陽光、ご飯出来たよ」

いつだって優しく声をかけてくれるお母さん。
それが生きていて唯一の救いなのかもしれない。

「うん、わかった」

ただ、距離が近すぎて、私には傷つける事は出来ない。

たった1度だけ小さい頃、傷つけてしまった事がある。

お母さんはその時死のうとした。

怖かった。壊れてしまいそうで。

だから、傷つけてはいけないと。腫れ物に触るように。

そう、そんな関係だ。

私には欠けてるものが多い。

人間関係も友達関係も家族関係も。
そして外の世界も。

だからこそ誰かの力を借りて生きていかなきゃいけない。

ただ、叶うならお母さんはもう少し妹も見て欲しい。

「希心(のぞみ)は?」

「……さぁ」

エプロンの裾を握る時は聞かれたくない事を聞かれた時だ。

お母さんの癖、ずっと変わらない。

夏山希心、小6の妹。

小1の中頃から学校には通っていない。

いわゆる不登校だ。

「冷めちゃうから早く来なさい」

お母さんは希心が嫌いらしい。

私には理由は分からない。いや。

分からない方がいい。