『はぁ.....』
もうため息しか出ない。
母の甘すぎる卵焼きを口に運びながら時よもどれ、と念じた。
朝まででいいから戻ってくれ。
結局入学式には間に合ったもののクラスの皆には好奇の目で見られ、式中の返事では2年生から笑われた。
「どんまいどんまい気にすることないってぇ」
と言いつつ大和は爆笑している。
俺の恨めしげな目に気づくと必死で笑いをこらえ始めた。
腹立つヤツ.....
だけど朝散々待たせてしまったからあまり怒れない。
クラスを見渡せば未だちらちらとこっちを見ているやつが何人もいる。
くっそ俺のドキドキ☆モテモテ高校Lifeが.....。
「なー話変わるけどさ」
『なんだよ。』
「まあまあそんな怒んなって」
俺の膨れっ面を見ながら大和がなだめるように言った。
「今日放課後皆誘ってカラオケでも行こうぜ?気分転換にもなるし友達も増えそうだしさ!」
こういうとき、大和はいーやつだ。
馬鹿にしたりもするけどちゃんと気遣ってくれる。だけど、今日はテニス部の見学に行きたかったんだ。
......先輩達の中で朝のあれが広まってそうでなんとなく憂鬱だけど!
『行きたいけど、今日は部活の見学行こーと思ってて.....』
「あーハルはテニス部だっけ?小学校からやってんだもんな。」
『そそ。お前は部活入んねーの?』
「俺は帰宅部でいっかな〜」
放課後は遊びたいし、と大和は呟いた。
「ハルやっぱテニス部なんだ!」
後ろからいきなり声が聞こえて俺は飛び上がった。
梨花だ。なんと奇跡的にも3人とも同じクラスだったのだ。
『お前毎回後ろから来んなよな!』
「ごめんごめーん。」
梨花は悪びれもなく言うと自分のバックから鍵を取り出した。
「ね、テニス部見学行くならさ、うちのお兄ちゃんに鍵渡しておいてよ。うち今日友達と放課後出かけるから!」
『ええー!』
と半ば強制的に渡され、しぶしぶ受け取った俺だが、実はかなり嬉しい。
梨花の兄の健一(ケンイチ)は現在高校3年生勉強もできるしかっこいいしテニス上手いし何より俺に優しい!
昔っからの仲でずっと俺の憧れの存在だ。
憂鬱だった気分も吹っ飛んで、部活見学がとても楽しみになった。