「はあ...」
ああ、またため息をついてしまった、幸せがにげちゃう。
僕は逃がした幸せを再び吸い込み、口に力を入れて閉じた。

さっきからどれくらいの間、幸せを逃がしては吸い込んでいるのだろうか。

シャーペンを握った右手の下には、真っ白な原稿用紙。
右下には「家族に感謝を伝えよう!青少年作文コンクール」と小さくプリントされている。

家族に伝える感謝なんてない。出来るならばあんな人たちを家族と認めたくないくらいだ。

あの人達が、僕の為にに何かしてくれた事があっただろうか、思い出したくない記憶ばかりが鮮明に蘇って、頭がおかしくなってしまいそうだ。

初めに、真っ赤な顔で怒鳴りながら僕を殴ろうとする父、続けて僕を守ろうとして僕にかぶさる母が浮かぶ。

「家族」ときいて、一番に浮かぶのはこの記憶だった。

母は泣きそうな顔でやめてと叫ぶが、それはかえって父の怒りを増幅させる。父は母を押しのけ僕の髪を掴んで思い切り下へ引く。

僕の視界から母も父も消え、今見えているものが床であることと、自分が下を向いていることに気がついた瞬間に、後頭部から首筋にかけて激しい衝撃を感じる。父が僕の頭に拳を振り下ろしたのだ。