慧太は今日も倉庫という名の家に帰る。
もう、アリスとは1週間も会っていない。
いい加減にこの状況にも慣れた。
………訳ではなく、まだ慧太の心はぽっかり穴があいたままだった。

 慧太はいつものように鍵をあけ、部屋に入った。
 でも、ドアの閉まる音がしない。
慧太は振り返った。

 幻覚かと思った。

そこにアリスがいたから。
でも、どうやらそうではないらしい。

「……え?なんでここにいるの?」

 「……倉庫の陰に隠れて待ってたの。」

なんでだよ!
そう思っていたらアリスが部屋に足を踏み入れた。

 「だいたいあんた……」

次の瞬間、彼女は落ちていたCDでつまずいた。
アリスがこっちに倒れ込んできた。

「わっ!!」

  ガッシャーン

「…………っ……!」

俺は仰向けに倒れた。
俺の上にはアリスが乗っていた。
 慧太は我に帰った。

「なにやってんだよ!早くどけよ!」

………じゃないとおまえを忘れられなくなる。
慧太は心の中でそう言葉を付け足した。

 「やだ、どかないっ!」

 慧太には、彼女が怒っているように見えた。
………そのまま怒って帰ってくれよ……
じゃないと手遅れになる。

「なんで来たんだよ!」

おまえが来なければこんなことには………

 「なんで来ちゃだめなの!?」

うっ………
ほんと………もう…ほっといてくれよ……
………こんな弱い俺のことなんて。

 「………っ嫌だったろ、キスされんの!またするぞ!帰れよ!」

 「馬鹿っ!!なんでそんなこと言うの?私の気持ち考えないで!!そんな……そんな悲しい顔してっ!!」

慧太は呆然としていた。
 アリスの目から涙があふれでていたから。
こいつ……なんでここまで必死に………

 お前の気持ち?

「なにいってんだよっ!!急にキスされて!こんな嫌いな俺に向かって!」

慧太はもうやけになっていた。
だから、アリスの口からこんな言葉が出るなんて思ってもいなかった。

 「もし……もし嫌じゃなかったって言ったら?」

アリスの、涙を含んだ声が慧太の耳に届く。

「……え?」

あの男が苦手なアリスが?

 「私が、嫌じゃなかったら…………っあんたのことが好きだって言ったらどーすんのよ~」

そう言ったアリスの目から、たくさんの涙がこぼれ落ちていた。

「………は?」

アリスが俺のことを好き?
そんなこと思いもしなかった。
 このままなにも言わなかっても、アリスはずっと俺を追いかけて来るだろう。
そしてきっと、またこんな風に泣くのだろう。
何度も、何度も………
 そんな悲しい思いはさせたくない。
そう思った。

だったら、……全部話そう。

「わかった。全部話すから。」

慧太は話すのが怖かった。
だから、こんな質問をしてしまった。

「………聞いてくれる?」

でも彼女は優しく返事をしてくれた。

 「うん。」

彼女はこっちを見て、微笑んでいた。