ドアをノックする音が聞こえた。
慧太はそれが誰だか見当がつかなかった。
先生がわざわざ屋上に来ることはなかなか無いし、部外者だって入ってこない。

……………アリスか……?

いや、昨日あんなひどい態度をとったんだ。
あいつは俺のことなんか忘れて今頃家にいるだろう。
でも今俺はあいつに、来てほしいと思った。

思ってしまった。


 声が聞こえた。
間違いない、アリスの声だ。

そして、慧太の頭の中にはドアをノックする音が響いた。
……………もう、なんなんだよっ!

 慧太は、ドアを開けた。 

「何しに来たんだよっ!」

 「…えっと……謝りに………」

びっくりした。
何を謝りに来たのかが、慧太にはわからなかった。




「ごめんなさいっ!!私、なにか分からないけど嫌なことしたんでしょ?だから……」

 「お前は悪くない。」

彼は低い声でそういった。
私の声をさえぎって。

「えっ?じゃあ、なにがわ……」

 「どうでもいいだろ!もういいから帰れっ!」

 急に怒鳴られて、アリスが呆然としていると彼はさらに続けた。

 「お前はもう、ここに来んな!」

……………………え?

「なん……で?」

……嫌だ……帰りたくないっ!
今帰ってしまったらもう二度と、彼とここまで近づけないと思った。
だから、アリスは動かなかった。

せめて……せめて理由だけ………

そのときだった。
慧太の顔がさっきよりも近くにあった。
慧太が部屋から出てきたのだ。

  パタン……

ドアがしまる音と同時にアリスの背中はドアにくっついた。

…………っ痛い!
気がつくとアリスの両腕は慧太に掴まれていた。
必死に振り払おうとしたけどちっとも動かない。
アリスはそのとき初めて男の子の力の強さを知った。

………………怖い
脚が震える。

「ちょ……離しっ」

そのとき、慧太の唇がアリスの唇に強く押し当てられた。

……………っ!?

え?ちょっと?

そんな……………やめてよ………

「やめてよっ……!」

アリスは持っていたバックで慧太を殴った。
慧太がアリスから離れる。
その瞬間アリスは走って慧太から離れていった。

帰り道は涙でぼやけてよく見えなかった。




 彼女の足音がだんだん遠のいていく。

「……すまない。」

慧太は消えかかった足音にそう呟いた。