彼は上にあがる。
そんな彼を見ながらアリスもまた、上にあがる。

 アリスがはしごをのぼりきると彼は先に部屋に入っていた。
小さな部屋だった。

……………ギター?
そう、そこにあったのは沢山のCDに大きな機械、音楽プレイヤーと沢山のメモ、そしてぼろぼろのギター。
部屋の半分はベッドで埋まっていた。

 アリスは戸惑った。




 慧太はアリスが少し戸惑っていることに気がついた。

だから、説明を始めた。

「ここは、まだ屋上が使えてたとき倉庫だった部屋。今はもう使われてないから俺が勝手に使ってるんだ。」

 「え?じゃあここに置いてあるものは?」

「全部俺が持ってきた。」

 「え、これ全部持ってきたの?馬鹿じゃん!」

そう言って彼女は弾けたように笑い出した。
 こんなに大声で笑う彼女を慧太は初めて見た。

可愛いな……

素直にそう思った。




 アリスが部屋に入ると、彼がドアを閉めた。

 アリスははっとした。
よく考えると今私は密室で二人っきり!?
そう思うと変に意識してしまう。
アリスは自分の心臓の音が彼に聞こえてしまうのではないかと心配していた。

 ……………あれ?
アリスは疑問に思った。

何でこんなにドキドキするの?
何で彼にだけ?

  『恋』

アリスの頭のなかにこの一文字が浮かんだ。
私って彼が好きなの?
そう思うと顔が真っ赤になった。




 慧太はアリスを見ていた。
慧太には心なしか彼女の頬が赤く染まっているように見えた。

「顔赤いよ?熱、あるのか?」

慧太はアリスのおでこに自分のおでこをくっ付けた。
目の前に彼女がいた。




 目の前に彼がいる。
自分の心臓の音と彼の吐息だけが聞こえる。
アリスの意識がふっと遠のいた。

夢の中でアリスはふわりと持ち上げられた気がした。


 アリスが目を開けるといつもより近くに天井があった。

アリスの体はふんわりとした毛布に包まれている。
毛布は男の子のにおいがした。
周りを見ると狭く散らかった部屋と、彼の姿があった。

彼はギターを弾いていた。
綺麗な音だった。
アリスは彼が作るこの曲を黙って聴いていた。

彼をじっと見つめながら。