アリスは泣き止んだ。
でも、泣き止んだと言うよりは泣き疲れて留まったと言うほうが正しいかもしれない。

『腫れちゃったな。』

アリスは屋上の扉に写った自分の顔をみて思う。

『泣いていることなんて、みんなにばれたくない。』

アリスは目の腫れが治まるまで、屋上に居ることにした。




 慧太は屋上に出た。
5時間目の授業は、さぼるつもりだったので音楽プレイヤーまで持ってきていた。
――――と、人影を見つける

 『チッ、先客いんのかよ。』

屋上から出ていこうと思った。
思っているのに、彼女に惹き付けられて目が離れない。
 ピンクの唇に、茶色く艶のある長い髪。
柵に手を掛け空を見上げる彼女は、どこか寂しそうな目をしていた。

慧太は、そんな彼女から目を離せなかった。




『教室に戻ろう。』

アリスは後ろを振り返った。


二人の視線が重なる。


『…………』

黒い少し癖のある髪に真っ直ぐで透き通るような瞳。
彼の優しいまなざしがアリスを包み込んでいるように思えた。

 アリスは、はっとして我に返る。

『私は、明るくなくちゃいけない。』

だから、いつものように笑って声を掛けた。

「こんにちは!どうしたの?もうチャイムなってるよ?」

でも彼は急に笑顔になったアリスを見て驚いてみせた後にこう言った。

「………気持ちわりぃ。」

 それを聞いた瞬間に頭に血が昇った。
アリスは早くこの場所を離れようとした。
下唇を噛みながら屋上の扉まで歩いていき、彼とすれ違うと同時に小声で呟く。

「私だって、こんなことしたい訳じゃない。」




 アリスの弱い声を聞いた慧太は、気がつくと教室に戻ろうとする彼女を引き止めていた。

彼女の腕をしっかりと掴んで。