「お母さん買い物に行ってくるわ。二人共お留守番よろしくね。」

 今ここにいるのは俺と妹だけだった。
だから今だと思った。

「ミユお前…彼氏とかいるのか?」

一瞬彼女の表情が凍りついた。

 「え………いないよ……?」

「じゃあ、放課後一緒にいた奴は誰だよ!」

 「 あっ……見てたんだ。……彼氏?」

「お前……なんでっ!」

 違うの、聞いて!

 それから俺は、妹に話を聞いた。
友達があいつに狙われていて、ミユが代わりに付き合うことになったということ。
彼氏は最低な人間で、強引で、ケンカっぱやくて、自分に逆らう奴は許さない人だということ。
今、ミユがあいつにキスを迫られてるということ………

おい、ミユは小4だぞ!

 俺は妹からあいつの出席番号を聞き出し、手紙を書いて靴箱にいれた。

       挑戦状

 放課後、使われていない駐車場に来い
妹にキスをするのは、俺に勝ってからにしろ

              ミユの兄

ここの駐車場のはるか下には薄く川が流れていた。
のぞき込んだら寒気がするような高さだ。
なのに駐車場とこの川はたった10㎝の仕切りしかなかった。
そう、ここは『危ないから』という理由で使われなくなった駐車場なのだ。

 放課後、あいつは来た。
妹もついてきていた。

 勝てると思った。

俺は、ミユのためなら命を捨てる覚悟があった。
あいつが賭けているものはキスだが、俺が賭けているのは命だ。

だから、勝てると思った。


 おもいっきり殴られた。
たった1発で、意識が飛びそうになったが、ギリギリのところでこらえる。
 俺がパンチをいれる。
でも、その拳は片手でうけられた。

………っ!

びくともしない。
そうしているあいだに、今度は腹に蹴りを入れられた。

  ガハッ……!

 そんなケンカが5分ほど続いた。

「小5が中3に勝てるわけねーだろ」

あぁ、こいつ中3だったんだ。
そんなことを考えてるあいだも足元はふらついていて、俺はとうとうそのまま仰向けに倒れ込んだ。
空気が静まりかえった。
そんななか、俺の意識は遠のいた。

「………ちゃん!」

「お兄ちゃん!」

間違いない、ミユの声だ。
あぁ、なんだ……無事なのか。

「お兄ちゃん!」

「助けてっ!!」

!!……はっ!
慧太は急いで彼女のほうを見た。
ミユはあいつに迫られて、後ずさりしている。
おい、そっちは川じゃねーか!

「ッミユ!!」