「な、ななな何です...か...。」
うわ...この人、近くで見るとめっちゃカッコいいかも……ってそうじゃない!!
「お前、名前は?」
「えっ?大戸結衣ですけど。」
朝も言いましたけどね。
「オオト?」
ドクン……
あ……やっぱりね。コイツも同じなんじゃん。
『嘔吐さん♪』
また昔の記憶が……。うん、分かってたよ。分かってたはずなのに、なにこれ。全身がドクドクいってる。まるで、何か期待してたみたいに。
「やっぱりアンタも周りと同じなんだね。」
「は?俺なんか言った?」
プチン
私の中で、何かが切れた。
同時に言いたいことが溢れてくる。
「なんか言った?じゃないよ!悪かったね変な名前で!私だって好きでこんな名前付けてるわけじゃないんだから!」
息継ぎもせずに言いたいことをぶちまけた。ただの八つ当たりだって事は分かってる。でもこれ以上抑えられなかった。
彼はというと、目をぱちぱちさせている。
そしてキョトンとした顔で言った。
「……なぁ。俺別に、お前の名前変だなんて思っちゃいねーけど。」
「ウソ。」
「ホント。別に苗字じゃなきゃ良いんだろ?なら結衣って呼ぶことにする。」
なっ...!
何言ってんのこいつ!!
あぁもう、なんか調子狂う...。
「お、俺の事も遠慮せずに翔って呼べよ!」
?!
さっきまでの殺気立った感じは何処へ?!なぜ照れる!顔真っ赤なんですけど。てか、下の名前翔だったんだ。
急な態度の変化に驚くも、ここはとりあえず適当に流すことにした。
「はぁ。じゃあ翔で。」
「お、おう。結衣!」
ドキンッ……
……え?
ちょっと待って。
いや、今のは違うよ?
久しぶりに名前呼ばれたからちょっとビックリしただけだし!
ビックリしただけ...だよ...。
「?おーい、どーしたー?」
翔の声でハッと我にかえる。
そういえばずっと向かい合ってるし、やたらと近いし...ってあれ?
ドキドキドキ……
おかしいな。おさまったはずなのに。なんかまた...。
翔は何も知らずに私の顔をじっと見ている。その瞳に吸い寄せられるようにして私の視界が彼を映した。
どうしよう。そらしたいのにそらせない。逃げたいのに動けない。
心臓はうるさいし多分顔も真っ赤になっている。
なんで?名前を呼ばれただけなのに。どうして私、こんなに意識してるの?
これじゃあまるで……。
キーンコーンカーンコーン...。
お昼休み終了のチャイムが鳴った。
でもその後しばらく、翔から目がそらせなかった。
