恋愛コンプレックス。


声に出したつもりはなかったのに思わず口にしてしまった。




慌てて口を抑える。




「ははは!ウザいって言われたのは初めてだな」




あ、れ……怒らないの?




「す、すみません……」




「名前教えてくれたら許してもいーけど?」




そう言ってニコッと微笑む。




教えたくない。




でも助けてもらったし...




「お、大戸結衣です……」




「結衣ちゃんね!」




え?今の聞いてました?




大戸って苗字に反応しなかったの、これで2人目……。




でも……




名前を言われたのに、翔の時に比べて全然ドキドキしない。




それは、隣で寝こけているコイツの方が私の中で特別だからなのかな……。




「てか、結衣ちゃん声低いね!」




前言撤回。




ドキドキしないけど、ムカムカするわ。




あー殴りたい!!




襲いかかろうかと思ったが、この顔に傷をつけるのは恐れ多いため止めた。




代わりに冷たい視線を送ってやった。




「男みたいですいませんね」




「え、なんで?カッコイイじゃん!声優みたいで!」




「は?」




声優?そんなわけあるかい。




私のコンプレックスの1つなのに。




「バカにしてます?」




「してないしてない!なんでそうナナメに考えるのかな〜」




悪かったなひねくれてて。




「心許してる人とかいないの?」




はぁ?そんなのいるわけ……




「…ん...なに、してんの……?」




お、お、起きた……。




まだ眠たそうな目を擦りながらあくびをする翔。




ヤッベッぞ。




あ、人のネタ取っちゃった。




ヤベーぞ。




コイツ私以外に友達いるのかな。




いや、いない。




だとしたら新顔の登場に威嚇するかも。




暴れたりしないでくれよ……。




「広瀬くん!おはよ!」




イケメンの爽やかな朝の挨拶は翔の気に触ったらしい。




「あぁ?誰だテメェー」




威嚇するなっての!!




どーしよ……めっちゃ睨んでるし……。




でもさすがイケメンと言うべきか。




全く怖がる素振りを見せない。




それどころか、ずっとニコニコしている。




この二人の間に挟まれてちゃ危ない。




そっと逃げようとしたが翔に腕を引っ張られ、引き戻される。




「あの〜……お二人は初対面なのでは?」




イケメンが答えようとしたのを翔が阻止する。




「初対面だけど?」




いや、でも初対面で火花が飛び散るのはどう考えてもおかしいって。




「じゃあなんでそんなにいがみ合ってるの?」




「結衣ちゃん」




「はいっ!」




いきなり名前を呼ばれ、思わず返事をしてしまう。




「結衣、ちゃん?」




翔が不機嫌そうに言った。




そんな彼を見て、クスッと笑ってからイケメンは続ける。




「この人が心を許してる人?」




「えっ?!」