「おーい、まだかー?」
先生のよく通る声が響く。
「先生に怒鳴られる前に終わらせなきゃ...。」
しゃがみ込んでコーンを取ろうとすると、後ろから誰かが抱きついてきた。
ん?誰だって?そんなの決まってる。
翔だ。広瀬翔。
………………って………………
「しょ、翔……?!」
何?!どうしたの急に?! ビックリ通り越して硬直状態なんですけど……。
「スイッチ切れた。いつもの俺に戻ります。」
「ちょ、止めてよ!」
何をされるかと思っていたら、翔はそのまま前方向に倒れた。
自然と私の上に翔が乗っかる体勢。
「な、な、何して……!!」
もう見つかるとか、場所がどうとかそういう問題じゃない。
心臓壊れそう……。
ずっと真っすぐに私を見つめてくる翔。
目、綺麗とか思っちゃう……。
私今、結構危ないかも……。
二人の間に流れる静かな時間。その沈黙を破ったのは翔だった。
「……えーと、この後は……。」
彼がどこからか取り出したのは本。
こんな事しておいて読書?!
一体どんな本を読むのか気になり、少し起き上がってタイトルを覗いた。
「女を落とす、必勝法……?」
またなんつー事を……呆れた...。
「えーと押し倒してから...。」
なんかめっちゃ読み込んでるし、カラフルな付箋がたくさん貼ってある。
「おぉなるほど!ここで顔を近づけて...。」
本を読むのに夢中だった翔は気づかなかったのだろう。私は起き上がっている。
ただでさえ近いのに私が仰向けだと思い込んだままこれ以上近づいたら……
「…...ん...っ……!」
距離なんて、無くなってしまうじゃないか。
