私は左手をぶらぶら振って痛みがないのを確かめながら言った。

「ストーカー野郎に無駄口叩いたのは謝ります。でももう我慢の限界だったのよ」

 出来れば、一対一で対峙したかった。そしてさっさとケリをつけて、彼を取り戻したかったのだ。

 うつ伏せのまま肩ごしにちらりと彼がこちらを見た。

 そして、長いこと目を伏せて考え込んでから、おもむろに立ち上がった。

「・・・確かに俺もうんざりだ。これから繁忙期が始まるのに、狂人に構ってる暇はない」

 桑谷さんは台所に行って氷水をビニール袋に入れ、腫れたところに当てる。そしてそのまま話していた。

「詳しい作戦を立ててくるよ。実はもう、種蒔きは終わってるんだ。あとは、開始するだけ」

 え?と私は彼を見詰めた。

 種蒔きって、どういうこと?一体何が始まってるって?

 クエスチョンマークを頭の上に打ち上げた私を見て、桑谷さんは軽く笑った。

「俺と昔のパートナーが、この1ヶ月何もしてなかったわけじゃない」

 ・・・・何だって??と思って私は目を開けた。ニヤニヤしている彼に向かって言った。

「次はちゃんと私もいれて頂戴。でないと・・・勝手に動くわよ」

 彼は頷いた。想定内の事なんだろう。

「判ってる。勿論そのつもりだ。君を放っておくと危なっかしくて仕方がないからな」

 氷嚢を持ったまま私の前に来て、改めて向かい合った。

「じゃあ、話すよ。質問は最後にまとめてにしてくれ」

 私は頷いた。若干緊張していた。

 私の拳も氷で冷やしながらじっとして話を聞く。

 話は夜の11時までかかり、後は桑谷さんが出かけてしまって私は眠った。

 彼がいつ帰ってきたかは知らない。

 でも、朝起きたらちゃんと横で寝ていた。


 私は守られているんだ、と心の底から思った。