女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~



 歩きを止めないで彼を見上げる。何かを呟いたらしいけど、聞こえなかった。

 彼は前を向いたまま、さっきよりは声を大きくして言った。

「――――――海、行こう」

「海?」

 思わず立ち止まって聞き返す私の手を引いて歩くのを促し、相変わらず前を見たままで彼は言った。

「そう、今から」

「え?」

「車で。細川が居ないのを確認したら出発しよう」

「ええ?」

 やっと、私を見た。

 斜め上から見下ろして、笑っていた。

「明日は二人とも休みだ。今晩から海まで小旅行しようぜ」

「・・・車で?」

「そう」

「今から?」

「帰って、用意したら」

 呆気に取られて彼を見詰めると、やんちゃな笑顔のままで彼が私を覗き込んだ。その子供みたいな笑顔は久しぶりだった。

「嫌?」

「・・・いえ、別に・・・嫌、では・・・」

 って言うか、今やっと脳みそに到達した感じだ。

 ―――――――嫌なワケがない。