歩きを止めないで彼を見上げる。何かを呟いたらしいけど、聞こえなかった。
彼は前を向いたまま、さっきよりは声を大きくして言った。
「――――――海、行こう」
「海?」
思わず立ち止まって聞き返す私の手を引いて歩くのを促し、相変わらず前を見たままで彼は言った。
「そう、今から」
「え?」
「車で。細川が居ないのを確認したら出発しよう」
「ええ?」
やっと、私を見た。
斜め上から見下ろして、笑っていた。
「明日は二人とも休みだ。今晩から海まで小旅行しようぜ」
「・・・車で?」
「そう」
「今から?」
「帰って、用意したら」
呆気に取られて彼を見詰めると、やんちゃな笑顔のままで彼が私を覗き込んだ。その子供みたいな笑顔は久しぶりだった。
「嫌?」
「・・・いえ、別に・・・嫌、では・・・」
って言うか、今やっと脳みそに到達した感じだ。
―――――――嫌なワケがない。



