女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~



 まさか返答があるとは思ってなかったんだろう、ハッと息をのむ音が聞こえた。

 私は早口で口上を述べる。

「本日のご利用、誠にありがとうございました。お客様は営業妨害といたしまして百貨店と警察にその旨通報いたしますので、その点ご理解下さいませ」

 そして軽やかなチン、と言う音を立てて、電話を切った。

 あーあ、本当にバカ野郎だったぜ。ゆっくりと深呼吸をする。

 だけどちょっとスッキリした。言いたいことを言ったから。これで挑発にのって、私の前に出てきてくれないだろうか。そしたら一気にカタがつくのに。

「・・・ねえ、小川さん?さっきの電話大丈夫だったの?絶叫してなかった?」

 接客を終えた友川さんが、隣の店から身を乗り出す。

 私は軽く手を振って、大丈夫だと笑った。「変なお客さんだったのよ」って。



 早番を合せていたので、少し残業した桑谷さんを店食で待ったあと、百貨店の入口で待ち合わせた。

 一度ヒュっと冷たい風が吹き、私は首をすくめる。

 隣を歩く桑谷さんが、風が冷たくなってきたな、と呟いてするりと私の手を握った。

 手なんか繋ぐの久しぶりだ。

 顔を見ずにして、彼の存在を大きく感じた。繋いだ手から温かさが溢れ出るようだった。

 さっきまで頭を占めていた、昼間のストーカーの絶叫が綺麗に消え去り、私は小さく微笑む。親に抱っこされている幼児のように、無敵!!って心境だった。

 私の耳の辺りの高さにある桑谷さんの口が小さく動いた。

「え、何?」