間が空いた。
私は後ろを振り返って、店に来客がないかを確かめる。それにそろそろ竹中さんが戻ってきてしまう頃だ。急がねば。
『・・・そうだな、僕と付き合って欲しいんだ』
「すみませんが、お断りします。現在付き合ってる彼がおりますので」
『彼って桑谷だろう?振ってしまえばいいじゃないか』
「告白して断りを受けたのに、まだすがり付く男は情けないと思いませんか?」
また、間が空いた。
驚いているのか怒っているのか悲しんでいるのか、全く判らない静かな気配だった。
眉間に皺がよる。それは、予感がした、としかいい様がない。私は次の瞬間ぱっと受話器を耳から離した。
途端に、大絶叫が受話器から溢れ出し、響き渡った。
『うるせえんだよおおおおおおお!!!この雌犬がああ!!てめえなんか虫けら以下だって思い知れよおおおおお!!!』
・・・・あぶねー。あの声普通に耳で聞いてたら、絶対鼓膜破れてた・・。
受話器からの声があまりに強烈な絶叫だったため、隣の店にも聞こえたようだ。接客中の友川さんがハッとした顔で振り返った。お客様もこっちを見ている。
隣の店とお客様に何とか微笑んで見せて、相変わらず鮮魚売り場の方は見ないようにして、のけぞった体を戻した。
不快感と驚きでドキドキする胸を押さえながら、また受話器を耳に当てる。
絶叫の後の荒い呼吸が微かに聞こえていた。
私は笑顔をまた作って、ぼそりと低い声で言った。
「てめえは、その雌犬にすら相手にされないんだよ、バーカ」



