それに個人的な思惑があったので、3コールくらいで受話器を取った。店の名前と自分の名前を名乗る。
『・・・・今日は、居たんだね』
第一声がそれで、一発でストーカー野郎だと判った。念には念を、と思って一応普通に対応する。
「もしもし?こちらは桃源堂ですが」
『小川さん、細川です。いつもただ今席を外しておりますばかりだったのに、今日は出てくれたんだね』
小さなまったりとした声が耳の中に入ってくる。
深呼吸をして、心を落ち着けた。鮮魚売り場の方を見ないようにして、わざと笑顔を作る。桑谷さんに見られても普通の電話だと思ってもらえるように。
「―――――細川さん、ですね。何か御用でしょうか?」
すぐに電話を切られると思っていたらしく、驚いたような気配の沈黙が伝わって来た。
『・・・・小川さんの声が聞きたかったんだよ』
「大変申し訳ありませんが、この電話は売り場のもので私用に使うことは禁止されておりますので、ご用がないのでしたら今後はお控え下さいませ」
抑揚もつけずに、大して申し訳ないと思ってないのがバレバレの言い方でたらたら喋る。
『仕方ないよ、君の携帯の番号知らないんだもの。ああそうだ、今教えてくれ』
相変わらずの小さな声で、あっちも平坦に話す。私は笑顔のまま続けた。
「先に伺いたいんですが、細川さん」
『・・・何?』
「あなたの目的は何ですか。手紙に電話、毎日ご苦労様ですが、一体私に何をして欲しいと思ってるのかを、ちゃんと聞きたかったんです」



