だから、ここには帰れなかった、と言ってこっちを見た。疲れてはいるようだったけど、いつもの冷静な目だった。
「判ったの?」
「住んでいるところ、名前、外見は判った。でもこれ以上は相手が動かないとどうしようもない。俺を恨んで何かするつもりなら、万が一があるからここには来れないって思ったんだ」
座り込んだままで、私は聞いた。
「・・・で、どうするの?」
「・・・それを考えてんだ。ずっと。でもとにかくもう仕事もそんなに休めないし、出勤は守らなくちゃいけない。それで来てみたら―――――」
桑谷さんが口の端を上げて、少し笑った。
「―――――怒り狂った、君に捕まった」
憮然とした。何だその言いようは。
「・・・怒り狂ってなんてないし」
「ああ、非常に冷静だったな、確かに。冷たいくらいだった」
私は隣に転がっていたクッションを彼に投げつける。だけど残念ながらそれは彼には当たらずに、壁にぶつかって落ちる。
くくく・・と小さく笑って、桑谷さんはクッションを玄関の方に投げた。
「・・・じゃあ、そのバカが何かしてまた捕まるまで一緒にはいられないの?」
むっつりと私が言う。結婚なんかしてたら、新婚早々寂しい妻になるとこだったのね、私。何てことだ!早速弘美に言わなくちゃ。



