「いやー、よかったよ!まことくん?よね。次もお願いしていいかな?」

「はい。お店に来ていただいて、僕の指名が入っていなければ…いつでも。」

「うふ。じゃあご利用させていただくわね。
でも、ホントびっくり。あなた…まことくんって、いつ来ても指名入ってるから、どんな子だろうと思ってたの。」
「はぁ。」

「まさか!こんなに上手でワタシと相性ぴったりなんて!
嬉しいわ。こんなに気持ちよかったの、久しぶりだったもの。」

「…ありがとうございます。あっ、時間ちょっと過ぎてます。
マスターには内緒にしとくので、下に降りましょう。」

「やさしいのね。うふふ。今回はいくらなの?」

「2時間のコースと、下で飲まれたカクテル、おつまみ、それに僕の指名料、合わせて19500円です。」

「あら、延滞料金は?」

「結構です。あ、マスターには内緒ですよ?」

「ふふふ、ありがとう。」

「それでは。またお待ちしています。」



じゃあまた。と、男はご機嫌でエレベーターに乗り、下へ降りていった。

エレベーターのドアが閉まると、佐本は呟いた。



「延滞金なんて取っても全部マスターの物だからな。」




そうして佐本は、〈関係者用エレベーター〉と記されたエレベーターに乗り、4階まで上がった。





「ふぅ…つかれた。」



22歳の頃、俺は4階建てのゲイバー兼ソープランドで働いていた。

下のゲイバーで好みの男を指名し、雑談する。
そこまではただのゲイバーと変わりはない。

ただ、このゲイバーには「下」と「上」があり、下は1階のゲイバー、上は2階以上を指している。

2階と3階はこのゲイバー専用のラブホとなっていて、指名が入り、雑談をした後に、この専用ホテルで事を行うのであった。

4階は、お客様に指名され、仕事を終えた男たちの休憩室となっている。


俺はその店の売り上げトップ3に入るほど人気だった。

店に出勤すればすぐ指名が入り、休憩室を出て下に戻ればまたすぐに指名が入る…。

そんな毎日を暮らしていた。

俺は主にネコ…受けの専門だった。
お客さまは比較的にタチの比率が多い。

手っ取り早く沢山の金を稼ぐには、どちらがいいかと言えば、タチよりもネコの方が稼げたのでネコになった。

理由はそれだけだ。




俺には金が必要だった。
自分の体を売ってでも、どうしても必要だった。

そうでなければ生きていけないからだ。

今年、俺は大学を卒業した。そのあとは晴れて社会人となるつもりだった。

出身は県内では有名な大学で、そこの教育学部に通っていた。

大学の頃はとても楽しかっ
た。
憧れのキャンパスライフ。サークルにも入っていて、友達も多いほうだった。



教育学部に入ったのは、これといって行きたい学部がなかったからでもあるが、教師の資格をとるためだった。

教師になりたい訳じゃない。教師の資格をもっていた方が、就職に有利なのだ。


しかし、周りは「教師になるのが夢」という人ばかりで、俺もいつしか周りに影響され、教師になりたい。と思うようになった。


大学4年の秋
無事に試験も合格し、教員免許を取った。


ぼやっとはしていたが、これから俺は教師になって、子供たちに未来を与えるようになるんだろうな。と思っていた。