ジャーーー
「ふぅ。」
沢野のことを考えながら自分を慰めた佐本はごきげんだった。
次の時間は終礼か。副担任だし、少しくらい遅れていったって大丈夫だろう。
佐本は鼻歌をまじえて渡り廊下を渡っていた…
「佐本先生!!」
聞き覚えのある声。いや、さっきまで想像し、おかずにしていた時の声だ。
「…沢野先生。」
「終礼、はじまっちゃいますよ!」
そんなことはわかっていた。
それに顔を合わせづらかったので佐本は顔をうつむかせた。
「っあぁもう!」
ぐいっと何かにつかまれた感覚。
沢野先生が俺の手を掴んだのだ。
さすが体育教師。俺が振り払おうとしても、力が強くて離さない。
「生徒がまってます!行きますよ」
そういって掴んだ手を離さないまま、俺は引っ張られるようにして廊下を進んだ。
ドクドクと心臓の音がうるさかった。
手に汗もかいている。
沢野先生はこの事に気付いているのだろうか?
「つきましたよ」
「手…」
我慢できなくて言ってしまう。
沢野はあわてて手を離した。
「気付かなかった!ごめんなさい。痛かったですか?」
そういって沢野は両手で俺の手を包みこみ、やさしく撫でた。
ずっと掴まれていたところは赤くなっていて、沢野はそれを心配していた。
「こんなに赤くなってる…」
「これくらい、大丈夫ですよ?」
沢野はとても反省した顔色をみせた。
その顔がまた、佐本のまことを間接的に刺激する。
「も、もういいですからっ!生徒たちが待ってます。教室にはいりましょ?」
佐本はまことがハッスルしていることを隠すため、沢野を教室に入れさせようと必死になった。
「本当ですね…」
沢野はなにも知らずそれを素直に受け止め、すんなりと教室に入った。

