俺の批判的な意見に口を尖らせながら
「えーっだってあの漫画面白いし。」
とすねている。
相変わらず、変な奴だと思うと自然と笑みがこぼれた。
「何が可笑しいんですか?人の顔見て笑って!心配してあげてるのに…」
俺が笑っているのに気づいてさらに拗ねた様子だ。
「心配してくれてありがとな。まっそう言う事だから、お前の相手も掃除も今日は出来ないから。」
拗ねてる笑美花の頭をそっと撫でてあげた。
まるで日曜日に仕事が入ったお父さんと子供のようだ。
「解りました。それならデートも掃除手伝ってもらうのも今日は、諦めます。その変わり今度花見に連れて行って下さいね。」
さっきまで拗ねてた奴が急に、大人の女性に見えた。
それは、自分が知っているある女性の姿とダブって見えた。
シャワーの蛇口を捻ると暖かいお湯が俺を包む。
「最近更に似てきたな…」
キンヤの一言が頭を過る。
それをかき消す思いでシャワーの勢いを強めた。
俺達は、いや俺はどうにかしてる…
あいつと笑美花を重ねて一体どうしたいんだ?
ただ笑美花を初めて目にした瞬間、余りにも似ていてついあいつの名前を呟いた。
この妙な感覚を味わうのが俺は、好きになれない。
だから恵美花の事が苦手なのか…
と自分で納得してみた。
シャワーを浴びてスッキリするつもりが思惑通り行かなかった。
俺は、VネックのTシャツにカーディガンとジーンズとラフな格好に着替えて、ジーンズのポケットに財布と携帯と愛煙草のハイライトを入れ、 久しぶりの帰郷だが特に荒木先生以外に会う相手もいないし、最小限の荷物で充分だと思い部屋を出た。
掃除中の笑美花に留守を頼み、並木道へ出ると店の前の桜の木に視線が移る。
まだ七分咲きの桜を見てふと昔の記憶が甦る。
あの頃の俺には、お気に入りの場所があった。
高校をサボってよくその場所で音楽を聞きながら読書や昼寝をしていた。
いつからか隣には、あいつがいていつも笑ってた。
俺は、その笑顔が何よりも好きだった。
ふと後ろを振り向くとアルミ製の看板に「misaki」と書かれた文字がが目に入る。
「久しぶりだな…」
並木道に置かれたスピーカーからは、誰の為に唄われているか解らないLoveソングが流れ、俺の小さな呟きをかき消してくれた。