「ははっそうだったんだ。ごめんね。」
彼は、私の叫びを軽くあしらった。
「友人の百合ちゃんから紹介された桜木恵美花です!」
私の怒りは、まだおさまってなかった。
「まぁまぁ。ここじゃ何だから中にどうぞ。」
彼は、そんな私の怒りを無視して、ドアを開け店内に誘導した。
彼への、王子様的な憧れももう既に消えていた。
店内は、所狭しと段ボールがつまれていて、カウンターの上には、お酒の瓶が無造作に置かれていた。
お世辞にも、綺麗やお洒落とは言い難い状況だ。
「ちょっと待ってて。」
と店内の隅にセットされているアンティークのソファに案内された。
イメージしていたモノと違う現実と、これから先、あの失礼な男性と一緒に働くのかと考えると幸先不安になり落ち込んだ。
ただこういう状況でも
「店長さんは、優しくて素敵な紳士さんかもしれない。」と根拠の無い一筋の光を見いだしていたが、そんな私は更に混乱に包まれた。
「ケイトっ!!!」
ドアが開く音と同時に甲高い女性の大きな声が店内に響き渡る。
恐る恐る声の主へ目を向ける。
長いサラサラの髪に宝石の様に綺麗な瞳、プルプルのピンクの唇、そしてスラッとした真っ直ぐな身体、まるで雑誌に載ってるモデルさんみたいな女性が立っていた。