急な出来事に緊張して頭が真っ白になった…
真っ白な私の頭だからその後の継人さんの台詞は今でも心に残っている。
「み…さ…き…行くな…」
それは、とても小さな音で、そしてともも悲しみに満ちた台詞の様に聴こえた。
しばらく継人さんに密着したまま時間だけが過ぎる…
私は彼の腕に抱かれている間、ずっと答えのない質問を繰り返す。
「みさき…お店の名前と同じ名前。みさきって誰?」
私の目に映る継人さんは、苦しそうな哀しいそうな色を顔に出していたが熱のせいだろうかそれとも…
継人さんの腕の力が抜け、私は気づかれない様に身体を離し、継人さんの汗を拭いて静かにお店を出た。
自分の心臓がいつもより激しく動いている。
そして捕まれた腕がいまさら痛む。
抱き閉められた背中から熱が少しずつ冷めていく。
それと同時に胸に痛みが走る。
思えば、この日私は、初めて継人さんの事をちゃんと知った。
そしてそれを境に彼に好意を抱き始めると同時に一種の不安がよぎる。
みさき…と呼ばれていた女性の存在だ…
何故だか頭から離れない。
それに抱き締められた瞬間私は、抵抗出来なかった訳ではない。
抵抗しなかったんだ。
変な事を話すがまるで継人さんに抱き締められたのが初めてじゃないような感じがした。
私の頭はどうやらおかしくなっているのだろうか?
多分これが恋なのか?
解らない。
とりあえず、今度キンヤさんにみさきって人の事を聞いてみよう。
そしたら今のこの不思議な気持ちにも答えが出るんだと自分に云い聞かせた。