そうだった!今まで美容室でマリーさんに会ったり、お店で美紀さんに会ったりと濃い時間を過ごして来たせいか本日の目的を忘れかけていた。
この女のせい?で二ヶ月間私はどんな辛い思いをした事だろう。
負の感情に支配されかけた私は、自然と視線が足元へと移る。
すると足元にはさっきお店で継人さんにプレゼント?された素敵なブーツサンダルがあった。
「今を楽しんでみたら。」
美紀さんの言葉が頭をよぎる。
視線は、また上がり隣を歩く継人さんに。
継人さんがこの2ヶ月間毎夜毎夜飽きずに逢いに行く程の女性を見てみたい。
私の心は、その女性への負の感情から好奇心へと模様替えされた。
「きっと素敵な女性なんですね。」
笑顔で継人さんに語りかける。
嫌味っぽく聞こえたかなと不安に思ったが、 「うん凄く可愛いから期待してて。」
って子供みたいに無邪気に笑いながら話す姿を見て、一瞬ドキッとした。
ここ3ヶ月継人さんのとこでバイトして、初めてこんなに無邪気に笑う継人さんを見た。
「着いたよ。」
継人さんは、まだ建物が新しい居酒屋さんの前で立ち止まる。
入り口の上に、「安らぎ処一息」と大きな文字が書かれた木製の看板が掲げられていた。
入り口には、「本日貸切」と書かれたプレートが張ってある。
継人さんは、まるで自分の家の玄関を開ける様にあっさりとドアを開ける。
その瞬間
「らっしゃい!!!」と元気で大きな図太い声と、
「いらっしゃいませ。」
とつい最近聞いた事のある柔らかな声が聞こえた。
入り口の先には、カウンター席が十席程度と四人ぐらいが座れるお座敷の席が3っつあり何処にでもありそうな小さな居酒屋さんの風景が広がる。
そしてカウンターの中には、程よく日焼けした短髪の健康そうな男性とその横に着物が似合うおしとやかな女性が立っている。
「あっ!!!!」
思わず声を出してしまってた。
聞いた事があるはずだ!昨晩継人さんをタクシーで送って来た謎の着物姿の女性なのだから…
まさかとは、思っていたがやっぱり…
「どうしたいきなり大きな声だして?」
継人さんは、驚き私を振り返る。
「あっいえ…ごめんなさい。何にもないです。」
私は、小さく呟く。
「おいおい。入り口じゃなくてこっち座りな。」
女性は、私にどうもと言う感じでお辞儀をした。
私も、つられてお辞儀をして継人さんの隣りの席に座る。