屈託の無い笑顔に悪意は無いのだろうが、こいつの中での俺のキャラが見え隠れした瞬間でもある。
「やっぱり花見辞めようかな…」
「えっ??ちょっと、冗談ですよ。普通に天気が気になっただけですよ。」
慌てて、自分の失礼な態度に気づいたのか俺に弁解する姿があまりにも必死でつい可笑しく、笑ってしまった。
「ははっ、冗談だよ。」
「良かった。でも、そんな事するから、つい疑ってしまうんですよ。」
胸を撫で下ろし、俺を見つめる瞳は優しい色をしていた。
「ねぇ、継人さん。花見は、嬉しいんですけど…一つだけ教えて欲しいんですよ。」
「どうした?」
笑美花は、うつむき何故かもじもじしている。
「あの、日曜日の夜の事覚えてます?」
その一言で、最初に感じた違和感の意味を理解した。
「覚えてるよ。」
「あの、あれってどういう意味ですか?」
自分では、一番解りやすい言葉で伝えたつもりだったがどうやら違うようだ。
緊張しているのか、唇が震えているのが解る。
俺は、そっと笑美花のうなじの下に右手を起き、その震えた唇の震度を止める為に優しく唇を重ねた。
唇の震えが止まったのを確認してからそっと離す。
「こんな意味だよ。」
俺の言葉を聴いた笑美花は、まるで呪いで時を止められた姫が魔法で止まっていた時を取り戻した様にゆっくりと動きだす。
「あのっ、私も継人さんの事…ずっと好きでした。」
予想していたが、最悪の答えが俺の耳に届く。
「そっか…有難う。」
誤解しないで欲しい。
俺は、目の前にいる、桜木笑美花に好意を抱いている。
いつも不器用でめんどくさくて、何かと世話しなくて、苦手だ。
でも、目の前の何かに対して、真剣に怒って、喜んで、笑って、泣いて。
そんな、当たり前の事を当たり前にしてくれる笑美花の存在が自分の中で日に日に大きくなっていった。
それと、同時に昔愛したあいつの面影が日に日に色濃く笑美花に現れてる事に心の何処かで億劫になっていった。
笑美花の瞳から、小さな粒が頬を伝い流れ出ていた。
「あれ?なんでだろ?嬉しい筈なのに、涙が。」
俺は、指で涙を受け止め、カウンター越しに自分の胸に笑美花を強く抱き締める。
麗人、こいつが今流した涙はお前が残した涙だよ。
結して、笑美花の涙ではない。
泣かせたのは、俺だ。