目の前に沢山の金魚が入れられたビニールプールを見た瞬間、自分の中でメラメラと炎が燃え上がる。
私は、手に握るポイを構えて狙えを定めた。
ターゲットの出目金は、自分が狙われている事など知る由も無く、気持ち良さそうに泳いでいる。
静かに、けどスピーディにポイを金魚の背後か近づける。
そして、ターゲットを素早く掬い上げた瞬間、事態に気づいた出目金は、身体を大きく震わせるが、左手に構えた器へと移されてしまう。
「嬢ちゃん。中々やるね。」
金魚掬いの叔父さんに褒められ上機嫌になった。
私は、今金魚ハンターをしています。(ただの金魚掬いだ。)
大きな獲物をゲットして、得意気になってた私は、次のターゲットに狙いをすますていた。
「あっ、いたいた。何してんの?」
聞き覚えのある声が背後から、聞こえた。
振り向くと、継人さんがいる。
継人さんは、金魚屋のおじさんに、掬った金魚をビニール袋に入れてもらい、私の手を引っ張り人混みに紛れる。
せっかく良い調子だったのに。
私が、少しむくれていると、ニヤニヤと笑いながら、
「悪い悪い、でもお前も悪いんだぜ。少し、目を離すとこれだ。」
私が知っている継人さんと少し違って、何だか優しかった。
それに、初めて、手を握られて変に緊張する。
私の顔を覗き込み、握っている手に少し力が込められた。
「そんなすねんなよ。これからは、ちゃんとお前が迷子にならない様にこうやってちゃんと手を繋いで離さないからさ。」
「本当に?」
継人さんらしからぬ、いや私に対してのらしからぬ台詞に疑いの目を向ける。
「本当です。お前が何処に行っても、お前がどんなに嫌がっても、俺はこの手を離さないからさ。」
ありふれた台詞でも、本当に嬉しかった。
単純な私は、手を強く握りしめる。
その、瞬間遠くで大きな爆発音が鳴り響いた。
真っ暗な空に、大きな花火が綺麗に咲き乱れる。
「冬の空に花火ってのも有りだな。」
打ち上がる花火を見ながら、継人さんは満足そうだ。
私も、次々に上がる花火の美しさに心を奪われる。
ふと、また継人さんの顔を見ると笑顔の奥にいつも隠されている哀しみが、花火の光に照らされて少しだけ映し出されている様に思えた。