その日は東條グループにとって掛け外のない一日になった。
今迄、大小様々な派閥が存在していたが、継人の常務補佐就任を経て、東條グループが事実上一つにまとまったのだ。
「とりあえず?君の常務昇進は叶わなかったけど、今日はお祝いしたい気分だわ。何を食べたい?」
その日の夕方、営業報告に来た継人を捕まえた。
「有難うございます。何でも良いですか?」
継人が、凄くニヤニヤしながら私の顔を覗き込む。
「別に良いわ。イタリアン?フレンチ?それとも和食?今流行りのスリランカ料理なんかも良いわね。」
「あぁっ。それは、別にまたの機会に。」
「じゃあ何が良いの?」
「美味しいお味噌汁と卵焼きが食べたいです。」
「えっ??」
あまりにも質素な注文にビックリした。
お祝いのイメージとはかけ離れているオーダーに戸惑う。
「因みに、リアさんの手作りでお願いします。」
継人は私がチェックしていた書類の束を取り上げデスクの上に置いた。
「今日からは、もっと早めの帰宅をお勧めします。たまには、ご自宅で料理でもされてみては如何ですか?それとも、リアさんは料理は苦手ですか?」
覗き込む視線と目が合う。
その姿が、遠い記憶の中の麗人さんと重なり胸の奥がざわめいた。
「お気遣い有難う。なら今日は、もう帰るとするわ。久しぶりにお腹を空かせた大きな子供の為に夕ご飯を作りにね。」
出来るだけ冷静に、彼の言葉の意図を読み取る事に勤めた。
視線を逸らし、帰る支度を始めた。
「なら、夕飯の買い物の付き添いでもいたしましょうか?」
「お願いするわ。」
私達は、そのままビルを出た。
時計は、夜の8時を少し回っていた。
買い物を済ませ、マンションに帰り着いた。
幸い先日、ホームクリーニングサービスが来てくれていたから部屋に目立つ汚れも無かったので安心した。
継人は、リビングのソファに座り、夕飯を待ちながらTVのニュースに目を通していた。
何処にでも見られる、ありふれた光景。
「何で卵焼きと味噌汁なの?」
「あっ別に何でも良かったんですよ。」
「何でも良いって…」
「いや、最近外食が多かったし、たまには誰かの家庭的な手料理なんか食べて見たいと。」
「だったら、カレーとか肉じゃがとか色々あるんじゃない?」
私の何気ない言葉に継人は、黙り込んだ。