私の知らないこの子がこれまでどの様な人生を過ごして来たか直接見てはいないが、それが今の継人を創り上げたと言うのなら、会長としは、彼の能力の高さに喜ぶが、一人の子の母としは切ない気もちだ。
「そう…貴方は、最初から専務が常務のスパイって事を知っていたのね。」
「いえ、専務が俺を裏切って常務と手を組んだのは、多分ここ一年ぐらいじゃないですか?リアさん、貴方は経営者としては、優秀かも知れないけど少し優し過ぎるのが欠点です。」
継人の私を見る目が、鋭さを増す。
「専務が俺に優しくしたのも、裏切って常務に近づいたのも全て一つの目的の為ですよ。」
「何を言ってるの?」
「今日の会議で結果的に得をするのは、誰ですか?」
「貴方じゃないの?」
「まっ確かに、俺は無事常務に昇進しましたが、会社全体の規模で考えると、俺と常務の亀裂は深刻化し、専務と二人の役員も会社を去った。今東條グループは、確実に揺れています。」
冷静に話す継人の瞳が熱を帯びていて、言葉以上に、今の危機的状況を私に教えてくれた。
「詳しい話しは、後程話します。とりあえず、俺に着いて来て下さい。」
私は、継人の言葉に身を委ねた。
継人は、私と共に常務の部屋を訪問した。
途中、常務の秘書に面談を止められたが、会長権限で秘書の抑止を無効にした。
常務は、突然の私達の訪問に驚いていた。
次の瞬間、私は目を疑った。
「先程は、大衆の面前であの様な態度を取って、いや今までの非礼、本当に申し訳ありませんでした。」
継人は、常務に向かって土下座をして謝罪をしたのだ。
私も常務も現場を理解出来ずに、ただただ継人を見つめた。
「常務昇進も辞退させて頂く心つもりです。私等の話しを聞くのは、何かと不快かと思いますが、宜しければ話しだけでも聞いて頂きたく、こうして誠意をお伝えしております。」
頭を一行にあげる気配を見せず、継人は、じっと床に頭をつけていた。
「解った。先ずは、顔をあげなさい。そして、話しなさい。」
「有難うございます。」
継人は顔を上げ、今日までの一部始終を私達二人に話し始めた。
話される内容を聞いてる内に、自分の経営者としての未熟さを思い知らされた。