どんな些細な事でも良い。
私の知らない、我が子の話しを聞く時間はこんな私に与えられた唯一の幸福だったから。
「ゴリラと一緒にされてもあまり嬉しくありませんけど…」
「すいません。人間として魅力的だって事ですよ。カリスマ性があるんですよ。」
「ゴリラの話しを聞いた後で、カリスマ性があるとか言われても、あまり喜べないけど…」
きっとそのゴリラ?は良いゴリラなんだって事は、私にも解る。
継人の表情がいつもより、柔らかだから。
「でも、そんな貴方だからこんなに柄にもなくお喋りになってしまうのかな?何かガキみたいですね。」
頭をかきながら、下手くそな照れ笑いを浮かべる。
周囲の人間は、継人の事を麒麟児、天才、化け物、鬼、ハンサム、イケメン等、色々な表現方法で例えるが、教会で私の腕の中で、寝息をたてていた赤子の時も、黒川の屋敷の庭園で見つけた幼児の時も、目の前の清閑なスーツ姿も全て、私の愛する息子。姿、形、年齢なんか変わっても、例え母子だと名のれなくても、君を見る目はこれからもずっと変わらない。
「ふふっ、ガキみたいじゃなく、私から見たらまだまだお子ちゃまです。今は、デリケートな時期で表立って会う時間は限られてるけど、明日無事に常務就任がきまったら、お祝いしましょう。その時はまた、私に色んな話しを聴かせてくれる事を楽しみにしてるわ。」
「そうですね。それでは、私はこれで失礼します。会長も何かとお忙しいと思いますが、夜更かしは、美容の敵なので早目のご帰宅をお勧めします。では、また明日。」
継人はいつも通り、不器用にわたしの身体を思いやり部屋を出た。
時計は、深夜一時をまわっていた。
早く帰宅したいのは、山々なのだが、私は私で亡くなった夫から引き継いだ会社で仮にも会長を務める身だ。
女性だから、少しの隙でもみせるときっと会長から引きずり降ろされてしまう。
継人には、話してはいないがこの会社の中にも外にも私の今の地位を快く思ってない人が少なからずいて、その人達は私の気の弛みを狙って、失脚を企てている。
幸い継人が結果を出してくれたから助かったが、もし失敗していたら今頃は…
彼の残したこの会社を守る為に、闘う事を止めてはならない。