木に虫が集まるのは、樹液を求めたり、身体を休めたり、外敵や自然から自分を守る為だ。
でも、どんなに大きな木でも虫を養うには限界があり、その中の何匹かの虫達は、蜜にありつけなかったり、雨に打たれたりしている。
「俺が入社初日に、挑発的な態度を取ったのも、一つの揺さぶりですよ。」
あの日の事を思い出すと、冷や汗がまた吹き出して来そう。
継人は、先ず揺さぶりにかけて、木から落ちた虫を誘う。
大きな組織や派閥程、揺さぶりの効果は大きいらしい。
甘い誘いで捕まえた虫を次は、逃げない様に囲う。
最後に囲った虫かご(派閥)を補修する。
「地味なんですけど、これのくり返しですよ。まっ補修が1番面倒臭いですね。これを怠ると、折角捕まえた虫達が逃げたり、元の餌場に戻りますから。」
「どんな風に誘ったの?」
「それは、企業秘密です。個人のプライバシーに関わる事もありますからね。」
継人は、苦笑いをしていた。
多分、何度問い詰めても答えを聞き出せないだろうと思い、質問の矛先を変えた。
「女性だからあまり虫取りに例えられてもピンと来ないけど、それでも良くここまでのし上がって来たわ。全部貴方の予定通り?」
継人は、首を大きく横に降り否定した。
「全然。この二年貴方には話してないけど予定外の妨害や嫌がらせを受けて、中々手強かったですよ。」
「えっ?普段の貴方からそんな素振りは見えなかったし、社内でもそんな噂は一切耳にしなかったわ。」
「でしょうね。わざとそう振舞ったし、情報も漏らしませんでした。木が揺れたら虫が逃げますから。不安の伝達スピードは光より早いですよ。」
継人は胸ポケットから、煙草を取り出し火をつけた。
「そう…勉強になったわ。」
継人が煙草を吸う時は、胸の中のモヤモヤや苦しみや怒りや悲しみを吐き出す時だ。
少なく共、私はそう捉えている。
「いえいえ。貴方みたいなタイプの人間には必要ない処世術ですよ。」
私の顔を見て、継人は悪戯に微笑む。
「それは誉めてるの?それともけなしてるの?」
「誉めてますよ。俺の友達にも一人貴方みたいなタイプの人間、いやゴリラがいて。そいつの周りには、何時も不思議と人が集まるんです。もしかしたら俺なんかよりも、よっぽど早く出世したかも知れませんね。まっおつむがゴリラだから、人の仕事は出来ませんけどね。」
ゴリラ?と同じだと言われてもあまり嬉しくなかった。