マネージャーは、私の問いかけに笑顔で答えた。
「全部あいつのおかげですよ。」
彼は、あるボックス席で接客中のホストを親指で指した。
「少しお待ち下さい。私が説明するよりも、直接彼とお話しした方が貴方も宜しいでしょう。」
マネージャーは、彼の元へと行くと直ぐに申し訳なさそうに帰って来た。
「すいません。もうしばらくこちらでお待ち頂けませんか?今は指名のお客様の接客中で、断られました。一応オーナーの貴方が来店している事はお伝えしましたが…すいません。」
その噂の彼が現れたのは、それから一時間以上後のことだ。
その間遠目で、彼を観察していた。
唯一解ったのは、彼の仕草一つ一つが丁寧で上品だと言う事。
オーダーの頼み方、席に入る時の仕草、お見送りの姿勢、どれも一つ一つに上品さを感じられた。
見た目の年齢は、およそ二十歳そこそこだが、一般的に、その若さで仕草から上品さを感じとれた事がなかったので少し感心していた。
「失礼します。」
幼さの残る少し低い声が耳に届いた。
秘書からのメールをチェックしていた私は、視線を携帯から移す。
噂の彼が少し不機嫌な様子で私を見つめる、緋色の瞳と目が合い驚き携帯を床に落としてしまった。
私は、自分の動揺を彼に悟られない様に携帯を拾った。
「初めまして。このクラブのオーナーのリアって言います。貴方が噂の新人さん?」
「どうも。継人です。用って何ですか?」
彼は、無愛想に私に挨拶をして席に着いた。
私の胸の動揺は、間違いじゃなかった。
目の前にいるのは、昔私が手放した、大切な世界に一人だけの愛息だった。
どことなく麗人さんの面影が感じ取れた。
良かった。こんなにも大きく成長してくれていて、まさかホストクラブで再開するとは思いもしなかった。
ただ、継人は少し不機嫌の様子だ。
普通、会社の上司やましては、社長には愛想良く振る舞うのが常識だが、若さからなのかそういう目上の人を敬う態度が継人には無かった。
「貴方は、何でそんなに不機嫌そうなの?」
「解りませんか?」
私は、継人に態度を正す様に注意した。
本当なら今すぐにでも抱きしめたい。
だけど、そんな資格は私には無いから。
今は、一、雇用者として彼と接する事しか出来ない。