ボタンを履け違えた様にずれたひずみを修正が出来るのならば、きっとそれは私では無い事は、解っていた。
東城氏は、千尋と接している内に彼女に恋におちた。
ただ、彼女の心が私に向いている事も重々承知していた。
私が千尋と過ごした最後の夜から数えて一週間が過ぎた時、千尋は私への気持ちの整理がついた事を東城氏に告げ、これまでの感謝の念を伝え、真尋さんが待つアメリカに一旦、身を寄せる事を決めた事を東城氏に伝えた。
千尋を離したくなかった彼は、千尋に自分の気持ちを正直に伝えた。
彼女は、少し戸惑っていたが、ずっと自分を支えてくれていた東城氏を無下に出来ないと、暫くは、東城氏の元へと留まる事を決めた。
彼は、その間、千尋を少しでも元気づけたい思いで毎日彼女を食事や映画や舞台に連れ出した。
初めは、迷惑がられた見たいだが彼のしつこさに負けたのか、やがて、少しずつだが千尋は彼に心を開いていった。
簡単な心理学だが、人は弱く、何かに必要とされたいと思い、それが失恋の後なら尚更の事だ。
そんな、二人が恋仲におちるのに長くは、時間を要さなかった。
そして、数ヶ月が経ち、千尋のお腹の中に小さな命が宿っている事に二人は、気付く。
そんな中、一人の女性が彼の前に現れた。
彼女は、名を黒川紗耶香と名乗り、千尋の母親だと東城氏に告げた。
そして、千尋とそのお腹に宿った命は、方的処置を取って黒川家で引き取ると東城氏に何の前触れもなく告げた。
彼は、酷く困惑した。
ただ無下に返すには、黒川の名前は大き過ぎた。
困惑している東城氏に紗耶香は、ある取り引きを持ち掛けた。
その条件を呑むならば、今後二人の事に一切の口出しは、しないと言うのだ。
彼は、悩んだ。目の前の彼女は、答えを早急に出す様に迫る。
彼は、渋々その取り引きを承諾した。
紗耶香が、部屋の外に待機させていた付き添いの男性が準備した書類にサインをする様に要求したので、彼は紗耶香の言うがままに、書類にサインをした。
それから、紗耶香は、これから月に一回定期連絡を必ず入れる事を告げ、その場を後にした。