継人さんは、スタッフの間でも謎の多いモデルで、たまに撮影に参加していたがその素性は、誰も知らなかった。
噂では、事務所の社長の愛人かも知れないなんて言われていた様だ。
それから、数ヶ月が過ぎて、また別の撮影現場でエリさんは継人さんを見つけた。
「一言こないだの文句を言う気で、あいつに話しかけたら、あいつなんて言ったと思う?」
私とキンヤさんが継人さんの言動を予想出来る筈がない。
「あっ久しぶり。今日の撮影見てたけど良い感じだったね。」
「今更、そんな事言われても、嬉しくないんですけど。」
「いや、アンタじゃなくてスタッフの人達がイキイキと撮影してたからさ。」
エリさんは、継人さんが何の事を言っているか意味が解らなくて、少しムキになって継人さんを問い詰めた。
「あのなぁ。モデルって言うのはさ、単に写真を撮られるのがモデルじゃなくて、美しく撮ってもらうのが仕事な訳。」
エリさんは、継人さんの言葉の真意が解らずにいた。
そんなエリさんを見かねた継人さんは、めんどくさそうにエリさんに話しをした。
モデルもカメラマンも照明もアシスタントも全員人間であって機械じゃないから、撮影には、現場の空気がそのまま現れるらしい。
良く、カメラマンの人がモデルを褒めるのは、被写体のモデルの魅力を引き出す為だってのは、有名な話しだけど、一流のモデルって言うのは、自分だけじゃなく現場の空気をポジティブにして、最高の撮影環境を自然と整える。
けど、継人さんの話しじゃエリさんの撮影の時には、皆変に萎縮して現場の空気が最悪だったらしい。だけど、継人さんとの一件以来スタッフの人達と溶け込む事が出来たエリさんは、ここ最近、前よりも仕事を楽しめる様になって来た。
「なんか、自分が凄く子供みたいで恥ずかしくなったわ。」
当時を思い出し、小さな額を綺麗な指でかきながらエリさんは、呟いた。
「それからは、継人に自分を認めさせたくて、色々とつきまとったわ。」
「ははっ、『何か余計な奴に火をつけてしまった』って言ってたよ。」
キンヤさんは、継人さんの当時の様子を楽しそうに語っていた。