渡された茶封筒に心当たりのない彼女は、少し戸惑っている様子だ。
因みに、これから俺が行うドS行為に対しての慰謝料を入れてる訳ではない。
けど、お金よりももっと価値のあるモノだ。
苦労して(真央が)手に入れたので、渡せて良かった。
「これは?」
「秘密です。もしこの中身にお礼を言う機会があれば、麗人と俺の友人に言ってあげて下さい。」
「解ったわ。継人君、今日は会えてお話し出来て良かったわ。」
彼女は、屈託の無い笑顔で俺を送りだしてくれた。
余りにもその笑顔が記憶の中のあいつとそっくりで、いやあいつが彼女に似てるのか?
「俺も、こうしてお話し出来て、俺の勝手なワガママにも承諾してもらって良かったです。じゃぁ、俺は、これで。」
恥ずかしくなって、慌てて立ち上がり玄関に向かった。
彼女は、そんな俺がドアを締めるまで笑顔でお見送りしてくれた。
そして、最後に今回の件についての全てを俺に委ねる事を頭を下げて、謝罪した。
タクシーが到着するまでの間、煙草に火を着けて、春の少し冷たい夕焼け空を眺めていた。
今回の件、ここまではどうにか予定通りに事が運んだが、最終段階に突入すると思うと、不安だった。
麗人の残した日記の僅かな手がかりのお陰で、今を生きる俺達は、自分達の手に余る真実を手に入れた。
今まで様々な理由であちこちに散りばめられていた真実の欠片達は、元の形を形成する為に俺がここ、数日で掻き集めた。
残りは、最後の欠片をはめるだけだ。
例え完成する真実が、残酷だったとしても、そこには、絶望と哀しみしか産まれないかも知れないけど、仮初めの現実を生きてた俺達には、見えなかったモノが見つかるかも知れない。
まぁ、俺は一つだけ皆が見つける事が出来なかったモノを見つける事が出来た。
そして、先程渡した茶封筒の中身は、俺が見つけたモノの在り処を記したメモだ。
笑美花やキンヤ達が言う様な麗人の遺産よりももっと価値があるモノだと俺は、思うんだ。
「全部俺に任せろよ。だから、もう少しだから…」
煙草を吸い終わり、空の上を見ながらいる筈の無い麗人に向けて小さく呟いた。