「奈美、部屋の鍵を貸して。」
タクシーに乗せられて放心状態の彼女から鍵を受け取ると部屋の施錠を済ませて、タクシーへと戻った。
彼女は、私の行動にまだ状況を理解出来てないみたいだ。
私は、タクシーの運転手にジョージタウンに向かう様に指示した。
「あの…こんな格好で大丈夫ですか?」
自分のあまりにもカジュアルな格好に奈美は、不安を募らせている様子だ。
「そうだね。まっここは、私に任せなさい。」
そんな奈美を安心させてあげようと一声かけたがあまり効き目は無い様子だ。
タクシーがジョージタウンに入ると、私は自分のスーツを良くオーダーメードしてもらう洋服店へと奈美を連れて行った。
このブランドも元々は、フランスの小さな帽子職人から歴史がスタートしたが今では、世界中の大都市には、その支店がある程の規模までになった。
世界中を飛び回る私との付き合いも長く、アメリカでは、このジョージタウンの支店を良く利用させてもらっていた。
私は、長い付き合いの支店長に事情を話し、彼女の服を見繕って貰う事にした。
奈美は、煌びやかな店内に気後れした様子で周りをキョロキョロと忙しそうに見廻していた。
閉店前と言う事もあり店内には、スタッフ数名が残っていただけだったが奈美のあまりにも場違いな格好に衝撃を受けている様子だった。
「Mr.クロカワこちらへ。」
暫くして、支店長が私を奥の更衣室へと案内した。
「あの…これ?」
「うん。良く似合ってるよ。けど髪は解いた方が良いと思うよ。」
奈美の背後に周り一本に纏めた髪を解く為、ゴムを優しく外してあげた。
「さて、ディナーの予約の時間が迫っているから急ごう。」
私は、元々来ていた服を入れてある紙袋を受け取ると奈美の手を取り店を出た。
途中数人のスタッフとすれ違ったが、奈美のあまりの変わり様に口を大きく開けて驚いていた。
黒の光沢を帯びたワンピース状のドレスは、奈美の白い肌を際立たせ、小さな肩にはカシミアの少し厚手のの白いショールがまだ少し冷たい春風から彼女を守る様にかけられ、長く艶やかな黒い髪と織りなす姿は、黒、白の二重のラインを見事に作り上げていた。
流石にプロの技だとタクシーの隣でソワソワしている奈美を見て感心していた。