「ふっははっはっはっ」
彼女の突拍子のない、発言につい笑いが吹き出した。
最後にこんなに笑ったのはいつだろう?
それぐらい長い間こんなに笑った事は無かった。
彼女は、急に笑い出した私をポカンと口をだらしなく開けて見ていた。
どうやら、自分の発言が私を爆笑の渦に陥れた事に本人は気づいてない様子だ。
「急に何なんですか?私何か可笑しな事言いました?」
あまりにも笑う私に不信感を抱いた様子だ。
私は、湧き上がる笑動を抑え込み、彼女が落とした筆記用具を拾って彼女に手渡した。
「残念。私の招待は、サンジェルマン伯爵では無くてドラキュラの末裔だよ。」
上唇を持ち上げ、まだ健康な白い歯を彼女に見せた。
「えっ?」
どうやら、私の言葉にまた衝撃を受けた様子だ。
私は、そのまま固まった彼女に背を向け研究室へと長い廊下を歩き出した。
暫くして、私にからかわれている事に気づいた彼女は、走って私に追いつく。
「チョット、からかわないで下さい!」
少しご立腹の様子だ。
「ははっすまない。あまりにも真剣に突拍子もない事を言うもんだから、君の夢を壊したくなくて。」
「何ですかそれ?私は、真剣に言ったんですよ。ドラキュラなんて今時小学生でも信じませんよ!」
私にとっては、ドラキュラもサンジェルマン伯爵も似た様な存在なのだが、どうやら彼女にとっては違うみたいだ。
それから、研究室までの長い廊下の中、彼女は自分が知り得るサンジェルマン伯爵の話しを真剣に私に説明した。
話している表情は、真剣そのモノだが、内容は…
可笑しな子だ。
研究室に着く頃には、私の頭の中から華奈の名前は影を潜めた。
「教授、教授はサンジェルマン伯爵の存在をどう思います?」
研究室に着いてすぐに、論文の為に過去の手術のカルテとレポートの山と戦闘をしていた彼に、奈美は詰め寄った。
「?あぁっ!サンジェルマン伯爵ね。私は、信じてるよ。それは、そうとこないだのレポートの仕上がりは、素晴らしいよ。私の論文の役にも立ちそうで助かるよ。」
彼は、一瞬戸惑ったがまるで子供を軽くあしらう親の様に、彼女をいなす。
その様子を流石だと感心している私を、レポートの内容を褒められた事で少し上機嫌な奈美が誇らしげに見ていた。