「ナミ急に大きな声を出してどおしたんだい?ケイト大丈夫かい?」
彼の呼びかけのおかげでどうにか冷静さを保てそうだ。
「あっいえ…すいません急に大きな声出して。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。私の方こそすまない。つい夢中で、行儀が悪かったね。」
直ぐに自分の非礼を詫びた。
彼女は、慌てて私に駆け寄るとジーンズのポケットからハンカチを出して、珈琲がこぼれた私のスラックスを拭いてくれた。
その間、何秒かおきに私の顔をチラチラと見る彼女と目が合う。
私は、あまり運命だとか偶然等の不確かなモノを信じる側の人間ではないと思う。
全ての事象は、可能性の重なり合いの間で起きて、今日のこの出来事も、数字で表すことも可能だ。
だが、その事象によって引き起こされる精神状態の振れ幅の大きいいモノを人々は、昔から偶然や運命と言う言葉で表現するのだろうか?
「教授すいませんが、時間もないですし自己紹介なら歩きながら済ませますから。」
「そうだったね。ならナミ宜しく頼むよ。」
私のスラックスを拭き終えた彼女は、昨夜と同じ様に私の手を掴み彼の研究室から連れ出した。
研究室を出ると、彼女は私を睨みつけた。
「やぁ。偶然だね。まさか今日のナビゲーターが君だとは思いもしなかったよ。」
私は、出来るだけ冷静に対処しようと努めた。
しかし、彼女はそうではないみたいだ。
「やぁ。偶然だね?私があの後貴方の事をどれだけ心配したか解りますか?」
ある程度予想はしてたが、彼女は私が部屋から黙って消えた事にご立腹のようだ。
「すまない。急に用事を思い出して…」
下手な嘘が通用する訳はないと思いながらも、口から出た台詞の幼稚さに自分でも呆れてしまう。
彼女は、まだ私を睨みつけている。
「まぁ良いです。どうやら体調は大丈夫みたいですし。」
これ以上私を責めてもどうしようもない事に気づいたのか、無理やり納得してくれた様子だ。
「それでは改めましてKUROKAWAの黒川麗人と申します。今日は、忙しい中お時間を割いて頂き助かります。」
話しの話題を昨晩からそらそうと多少強引だが、自己紹介と挨拶を済ませた。
出来るだけ彼女との距離を取る為に丁寧に余所余所しい言葉を選ぶ。