桜の木を背景に、街灯に照らされた彼女の姿は、私が愛を誓った頃の華奈だった。
過度のアルコールの摂取が私に幻影を見せているのか?
それ程私の精神状態は限界に達していて、それを救う為に脳が華奈を作りだしたのか?
胸が、いや心臓が痛む。
急な運動と極度の緊張のせいか、激痛が襲った。
胸を抑え倒れ込む私の様子を見て、華奈?が私に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「あぁ。突発的なモノだ。年甲斐もなくあんな事をするから、その反動だろう。」
近くで見ると、瓜二つだ。
勿論頭では彼女が華奈で無い事等理解している。
あれから、時間の針は何周も周り続け、私も彼女も歳を重ねた。
ただ、目の前の彼女は、そんな辺り前の事象も意味がなさなかったかの様に、私の記憶の中の華奈の姿そのままなのだ。
「チョットついて来て下さい。」
彼女は、私の手を引っ張り歩き始めた。
「何処につれていくつもりだい?」
「私の下宿先がこの近くなんです。さっきのこともあるし、ここに置いてく訳にはいかないんで。」
「大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃありません!良いから着いて来て下さい。」
こうして、私はかなり強引に彼女に引っ張られるがまま、彼女の下宿先のアパートメントへと案内された。
「そこで、休んで下さい。」
私は、彼女に促されるまま部屋に設置されたソファへと腰を下ろした。
彼女は、私の額に手を当て、鼻がぶつかりそうになるぐらいまでの距離まで近づきじっと私を見つめる。
そして、安心した様に、私に語りかけた。
「症状をみる限り、やっぱり心筋梗塞なんかではないみたいですね。暫くそこで休んでて下さい。」
驚いた。彼女の私への対応をみる限り医療の知識が少なからずあるようだ。
「ありがとう。」
「いえいえ。本当は、公園のベンチなんかで直ぐに休ませた方が良かったんですけど、あんな事の後だし。」
彼女は、私をきつく睨み、嫌味を言った。
「すまない。」
「良いんですよ。って良くないか。でもさっきも言ったでしょ?少しスッキリしましたから。フフッ。すいません。不謹慎ですね。」
いたずらな笑みを浮かべるその姿が私の記憶の中の華奈の笑顔と重なる。