貴方は知らない。貴方が思うよりもずっと前に私達が出会っている事を。
貴方は知らない。貴方が思うよりもずっと前から貴方の事を見ていた真実を。
高校の入学式の準備が一通り済んだ午後私は、祖母を迎えに駅へと向かった。
駅の構内は、今年内装工事が行われたばかりで、少し複雑な構造をなしている。
祖母が迷子になっていないか心配で駅の改札口で待っていると、見知らぬ男のコが祖母と手を繋ぎ改札口を通る。
男のコは私の存在に気づいたのか、軽く頭を下げそのまま何処かに消えてしまった。
去り際に男のコが祖母に向けた笑顔が凄く優しくて、見惚れてしまった。
それが始まりだった。
その時は、特に貴方に対して特別な感情や興味が湧く事はなかった。
二回目に貴方と再開したのは、高校生活にも慣れた、五月の下校時、また駅の構内だった。
駅の裏の駐輪場にギャラリーの様な人だかりが出来ていた。
私は特に興味が無かったが半ば強引に友人に引っ張られて、ギャラリーの中に加わった。
駐輪場には、十人ぐらいの不良と思われる男子と貴方とその友人と思われる男子が二人いた。
貴方を除いて他の人達は、今にも殴り合いを始める様な空気を発していた。
貴方は、そんなの御構い無しで腕時計を確認して何やら別の事を考えている様子だった。
他の男子二人に何やら耳打ちをすると、ポケットから何かを受けとり彼等二人を残しその場を一旦去ると直ぐにまたこの殺伐とした空気の中へ涼しい顔をして戻って来た。
貴方が戻って来たと同時に、一人の男子の物凄い掛け声で乱闘が開始した。
初めて生の喧嘩ってモノを見たが、皆怒りに満ちた標準や痛みからくる悲痛な表情をしている中、貴方一人だけまるで何事も無い様に涼しい顔をしていた。
ギャラリーの中の女子の黄色声に応える様に、鮮やかに相手の男子を投げたり、蹴ったりとしている姿を見て恐くなった。
だって、あまりにもその姿から人間らしさを感じられなくて。
私は、そんな貴方を見るのが恐くなったのと電車の時間が気になり、徐々にギャラリーから距離を取り始めた。
暫くして、駅の構内アナウンスが流れた。
その瞬間
「GO!」
貴方の大きな声が響く。