「悪いな。急に。」
「いえ。それよりもどうしたんですか?」
「ちょっと俺の愚痴をお前に聞いて欲しくてさ。」
継人さんが愚痴を私に聞いて欲しい?
絶対何かおかしい!
これは、まさか夢なのだろうと思ったがカンパリの苦味が現実だと認識させてくれた。
「そんな、驚くなよ。」
「えっ?」
どんな表情をしているのか気になるがそれを確かめる手段が今私には与えらていなかった。
そんな私の事など気にも止めず継人さんは話し始めた。
「俺さ、昔凄く好きな子がいてさ、多分今までの人生でその子以上に人を好きになった事はないと思う。」
多分美咲さんの事なんだと直ぐに解った。因みに、継人さんの口から美咲さんの話しを聴くのは、長い付き合いだがこれが初めてだった。
「そうなんですね。継人さんがそんな風に話すなんて、きっと素敵な人だったんでしょうね。」
「どうだろうなぁ、人間の記憶なんて曖昧で、過去の事を美化する様に出来てるからな。」
少し美咲さんに対して焼きもちに似た感情が胸に宿っていた。
だって、初めてだつたから。
私の隣の継人さんは、凄く寂しそうに瞳を輝かせていて、そんな表情を今まで見たことがなかった。
「で愚痴って何ですか?」
「あぁ。いやな、そんか好きな子に対して俺は何もしてあげれる事が出来なかった。年齢とか環境とか言い訳にするには、あまりにも見苦しくてな。単純に俺の責任だよ。」
継人さんは、グラスを見ながら多分当時を思い返しているのだろう。
「笑美花、お前恋愛した事あるか?」
思いもよらぬ豪速球に私の心のキャッチャーミットは、弾かれた。
「えっ?いや…」
言葉に詰まっていた。
だって、隣に座っている人が好きな人だなんて言えません。
「悪い悪い急に。」
継人さんは、そんな私を見て何が可笑しいのか笑っていた。
「あのなぁ。もしこれから先お前に好きな男が出来て、その男と付き合う事があったら、ちゃんとお前が好きだって事を言葉に出して伝えてやれよ。じゃないと俺みたいになるから。」
私に話す継人さんの言葉からいつも以上に暗いトーンが感じられた。
多分、継人さんは普段私に見せないだけど私が思っている以上に美咲さんとの事で自分を責めていたんだと思えた。
そして、そんな自分を許してあげる事が出来ず苦しんでいるんだ。