部屋で早めの朝食を済ませた私達は、ロビーで待つ友人と合流した。
彼は、経済学の分野では著名な人物で、最近は資産運用についての研究を個人的に行っている人物だ。
千尋が通う予定の、ワシントン大学の経済学部の教壇にも立ったことがあり、そんな彼が今日のナビゲーターを務めてくれるのは、心強い。
彼は、私達二人をロビーで見つけるなり抱擁を交わした。
彼が手配してくれていたタクシーに乗り込み大学へと向かう車中の中、何やら二人の会話が弾んでいたが、正直、私の意識は別のモノに向けられていた。
今朝起きてから、現在まで、私が見る限りだが、千尋は普通だ。
聡明で明るく、私が知っている普段通りの千尋だ。
まるで、昨晩の出来事が、まるで私一人が見た悪い夢だったかの様にさえ思えてくる。
「ヘイっ、麗人。千尋は、本当に日本人かい?私の南部訛りがキツイ英語を聞き取るだけじゃなく、昨年発表した私の論文に対して、興味深い意見を幾つも述べてくれるのだが。」
「フフッ、ミスターが思っている程訛りもキツくないですわ。それに、私の拙い英語をしっかり聞き取り理解して下さるので、安心して会話させて頂いてるだけです。」
彼は、千尋の事を気に入った様子だ。
「そうだね。私も昨日、初めて彼女の英語を聴いて驚かされたよ。これで、安心して、こっちでもお使いが頼める。丁度、タバコがきれそうで困ってたとこなんだ。」
「ははっ、なら私は、今晩の夕食の買い物をお願いする事にするよ。」
「もう、二人して。ならチップをお忘れなくご準備していて下さい。」
こんな、とりとめ様のない会話の中で、私は、一人日本人の定義について考えてしまった。
千尋は、アメリカ人の父とスペイン人の母を持ち、日本人の私に引き取られ日本で教育を受けたのだが、彼女は紛れもなくアメリカにルーツを持つ。
戸籍上は、日本人でも、彼女の中には、アメリカ人の血が確かに流れているのだ。
そんな、事を考えているうちに、
大学へと到着した。